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歩けぬ春を想えない

おそるおそる手を伸ばした

あのひとのときも。

繋いだ手は熱すぎると

文句を言ったひとのときも。

木々に囲まれた境内で

そっと抱きしめたあのひとのときも。

ホームで強引に唇を奪った

あのひとのときも。

やっとやっと

繋いだ手のひとのときも。

春は。

出逢いの季節で。

一つの別れが

その春すべてを汚してしまうような

そんな気がして。

過ぎ去った春の

そのひとつひとつ。

あのとき

並んで歩けなかった桜をなぞりながら。

何を想い

いかに愛されていたのか

必死に想い出す。

抗ったところで

失った春に

何も宿ってやしないのに。

ずっと。

ずっとずっと冬だとしても。

その先に

春があれば

人は前を向けるのに。

先の無い春は

何を想って散るのだろう。